145 中国古建築 瓦葺きの技術③ 屋根工法の変化

中国古建築の瓦葺きの技術
「中国古建築瓦石営法」(劉大可　編著)ーーー抄訳

二、屋根工法の変化
（一)琉璃瓦の屋根
　　琉璃瓦は表面を釉薬を施した瓦で、その大きさの規格は、二様から九様までの８種である。(表5-1)(※1)
古代にあっては、琉璃瓦はただ宮殿建築のみに用いられ，清代には厳格に規定があり、親王・世子・郡王は緑色の琉璃瓦のみを用いることが出来、皇宮と廟宇は黄色の琉璃瓦もしくは黄色の剪边(※軒近くだけを横一列に黄色の瓦で葺くこと)、離宮別館と皇家庭園建築は黒・藍・紫・翡翠の色と各色の組合せの”琉璃集錦”の屋根を用いることができた。
　(1)削割瓦の工法：一般に琉璃瓦の素地を素焼き後、”焖青”をして、釉薬を再度施さない瓦である。削割瓦の外観は黒瓦と近いと言っても、その工法はむしろ琉璃の規則に則っており、言うなれば削割瓦は釉薬面が無いとしても、等級と工法の角度から言えば琉璃瓦屋根に属する。特に棟で、仙人と走獣の工法と完全に同じである。
　(2)琉璃剪边の工法：琉璃瓦を用いて軒端と棟を作り、削割瓦若しくは布瓦を用いて屋根面を葺く。或は一種の色の琉璃瓦が軒端と棟を作り、その一色以外の琉璃瓦で屋根面を葺くもの、例えば黄心緑辺或は緑心黄辺など。一種の色の琉璃瓦以外を心にする剪边屋根は、庭園建築に多く見られるが、一般建築にも用いられる。（下は瀋陽故宮）　(3)琉璃聚錦の工法：二色或は多色の琉璃瓦で図案を作る屋根工法で、よく見る図案は、方勝(菱形)・畳落方勝(双菱形)・囍字等である。聚錦工法は庭園建築或は地方の建築で用いられる。(下は鄭州孔廟)
(二)布瓦の屋根
　　色は深い灰色の粘土瓦を布瓦と言う。琉璃瓦屋根で区別するに当たっては、黒い(黒活)屋根面又は墨瓦である為常にこのように言われる。布瓦(或は黒活)屋根は多くの工法があり、人はいつもその工法に因んで名付ける。例えば、筒瓦(※丸瓦）屋根、合瓦屋根、幹槎瓦屋根等々だが、ただ琉璃屋根の場合だけを”布瓦”とか”黒活”と言うわけでは無い。布瓦の規格は表5-12を参照。(※1)
1.筒瓦屋根
　筒瓦屋根は円弧状の板瓦を底瓦として、半円形の筒瓦を蓋瓦として葺く工法である(図5-9)。筒瓦屋根は、宮殿・廟宇・王府等の大建築から、庭園建築中の亭・遊廊等まで用いる。小建築では、３号以上の筒瓦は使いにくい。民家中の影壁・小型の門楼・看面壁・廊下では筒瓦を使うかも知れないが、10号筒瓦に限られる。山西、陜西等の民家ではこの限りでは無い。　筒瓦屋根の伝統工法は次のようなものである。漆喰を底瓦列と蓋瓦列の間を隙間なく詰める必要があり、これを”夾壟”と言う。更に漆喰を筒瓦と筒瓦の接続部に隙間なく詰めるのを、”捉節”と言い、合わせて”夾壟捉節”と言う。筒瓦の表面は漆喰を塗らない。近代(※中国の近代は、アヘン戦争～第二次大戦までの区分)になって、”裏壟”の工法が現れた。即ち、筒瓦の外側に漆喰を筒状に塗る。この工法は最初は修繕の手段だったが、”夾壟捉節”後の瓦の列程スッキリしたものでは無いが、筒瓦のにより瓦列が揃わない欠点を補える。両者の中間の工法を”半壟半節”と呼び、この工法は筒瓦の列が揃っていない補修で、”夾壟捉節”工法の風格を保持できる。

2.合瓦屋根
　合瓦は北方では陰陽瓦とも言い、南方では蝴蝶瓦と言う。合瓦の特徴は、蓋瓦にも板瓦を使い、底・蓋瓦が、一方は反の向きで一方は正の向き即ち”一陰一陽”の並びとなる(図5-10)。合瓦は、主に小建築と北京・河北の民家で見られ、大建築には用いない。これらの地区では、屋根が合瓦か筒瓦かを見さえすれば民家か廟宇(或は王府)かが判る。江南地区では、民家であれ廟宇であれ、合瓦(蝴蝶瓦)が主である。これは漆喰を敷くものと敷かないものの2種類がある。敷かないものは、底瓦を直接垂木の上に並べ、その後旗瓦を直接底瓦列の間に置き、その間にはどんな漆喰も使わない。かつての北京工匠は、これを南方干槎瓦と呼んだ。3.仰瓦灰梗屋根
　この種の屋根は風格上、筒瓦屋根に似るが、蓋瓦の列を作らないで、底瓦列の間に漆喰を筒瓦のように盛り上げて、幅４cmの灰梗を作る(図5-11)。仰瓦灰梗屋根は複雑な大棟を作らず、降棟も作らないで、多くは余り凝らない民家に用いる。4.干槎瓦屋根
　干槎瓦屋根の特徴は、蓋瓦の無いことにあり、瓦の畝の間も灰梗を用いない；瓦の畝と畝が巧妙に置かれている(図5-12)。干槎瓦屋根の大棟と降棟は普通複雑な棟としない。この種の屋根は、軽く、材料も節約出来、草が生え難く、防水性能も良い。ただ木造架構が変形しないだけでなく、
が沈下せず、極めて雨漏りしにくい。干槎瓦屋根は河南地区と河北の一部地区に多く見られ、ある種風格のある民間工法である。5.灰背頂
　屋根表面を瓦で覆ってしまわず、”灰背”(※漆喰を背負う＝漆喰の屋根)で直接雨を避ける屋根を灰背頂と言う。この種の工法は、平台の屋根の場合も、大棟をもつ屋根でも良い。棟を上げる家屋の場合は一般にはただ局部に使うが、勾連搭の家屋の場合は、屋根の接続部の”天溝”(※屋根の雨樋)だけでなく、盝頂(※屋上のテラス)にも用いるし、”棋盤心”屋根(※７参照）などにも用いる(図5-13)。大棟を揚げる家屋は全て灰背頂を用いるのは、地方のやり方に属する。6.石板瓦屋根
　石板瓦屋根は、俗称”石板房”と言い、その工法は、小さい薄石片を並べて屋根を葺く(図5-14)。石板瓦屋根は地方のやり方で、田園の風格がかなり強い。7.棋盤心屋根(※中心が囲碁盤の意）
　棋盤心屋根を見ることが出来るのは、合瓦屋根の中央と下半部に一塊りに付いているもので、漆喰か石板に改造されたものであり(図5-15)、この種の屋根形式を棋盤心屋根と言う。上部の合瓦の畝を”麦穂”を作ると言う。棋盤心屋根の大棟は、一般に鞍子棟か合瓦過畝棟であり、降り棟に辺畝、梢畝と分間畝を作る。棋盤心屋根の特徴は、小面積の漆喰塗りの方法を採るので、漆喰地は亀裂が入りにくい。漆喰地はやや軽く、木部への荷重を減らしことができ、沢山の官式建築だけでなく、よく見えない屋根面に棋盤心屋根に採用される。とりわけ修繕手段として、この種の工法は更に優越している。8.焦渣背屋根
　焦渣背工法は多く平台屋根に用いる。その風格は”灰平台”に似るが、材料が焦渣灰に変わる。この種の工法は山西・河北・陝西等に流行している。焦渣背屋根は、軽く、工事費が安く、強度と剛性がやや高い。この為、明清期の舗装家屋、取分け穀物店と燃料店はよくこの種の工法を採り、物を乾したり置いたりする便を図った。焦渣背工法は古代建築中で廃材をりようした模範例である。

9.滑秸泥背屋根
　この工法は比較的簡単で、材料はやや混じりけのない黄土(或は白漆喰を少し混ぜ)、更に麦藁か稲藁などを混ぜる。蓆を敷いたのち鉄コテで均して平らにする。屋根が出来たら、何年か置きに1層分を補修塗りすれば使用できる。滑秸泥背屋根は、悠久の歴史ある屋根工法で、建築技術の発展により、近年見掛けることが少なくなった。

10.草頂
　茅葺き家屋は、麦藁・稲藁或は茅で屋根を葺き、今も辺境地方や臨時の家屋に見るが、ある種の民間風格の強い屋根形式で、今時の模擬古庭園設計でも参考にしている。

11.金瓦頂
　金瓦頂の突出した特徴は瓦が金色燦々、きらきらとした外観効果である。金瓦頂は3種有って、第１種は名前は金瓦だがその実は銅瓦で、皇家庭園に多い。第２種は銅に金メッキした瓦で、皇家庭園とラマ教建築に多い。第３種は銅瓦の外面を”金頁子”(※金箔か？）で包んだものでラマ教建築に多い。

12.明瓦工法
　ガラスを用いて屋根を葺く工法を明瓦工法と言う。宮殿建築中にも雲母片を加工して作ったものが有り、装飾効果が高い。但し採光はやや劣る。屋根を透明にする為に屋根は野地板と漆喰下地は使えない。明瓦工法は、温室に多く用い、特別な鑑賞をする庭園建築にも用いる。南方建築は常に瓦面の１～２枚を明瓦にして、天候変化を見る便をはかる。

(※1)表5-1,5-2は、後日UPする。
※”園林建築”を、庭園建築と訳している。

次回は、屋根面の下地工法

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